初回、阿部のライト線タイムリーで2点目が生まれた瞬間に、それは起こった。
阿部が2塁ベース上で、太股の裏を擦りながら苦悶の表情を浮かべていたのである。
彼の捕手再転向で懸念していた故障が、こんなに早く現実となってしまった。
そして、この緊急事態に川相監督代行は、實松ではなく小林を起用した。
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 計 | |
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巨 人 | 3 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 3 |
阪 神 | 0 | 0 | 0 | 2 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 2 |
【G選手雑感】
★アーロン・ポレダ
彼なりの投球はしていたと思う。
序盤は直球中心で攻めて、変化球は殆ど投げなかった。
特にチェンジアップは皆無に近かった。
中盤で失点されてからは、スライダー系を増やしたが、外のチェンジアップは少なかった。
やや小林の配球に偏りを感じたが、勝負処で低めに直球を集めて何とか凌いでいた。
この試合も彼はボークを取られたが、筆者が感心したのは最後まで落ち着いていたこと。
粘られて四球を与えても、無駄にカッカせずに自分のペースを見失っていなかった。
これで彼も2勝目となり、シーズン序盤を上手く滑り出した。
★山口鉄也
現状の彼にとっては完璧な投球だった。
1点差の緊迫した場面でマウンドに上ったが、小林のサインに首を全く振らずに、黙々と低めに切れのあるボールを投げ込んだいく姿は素晴らしかった。
彼の「鉄の意思」は、小林に対して確実に伝わっていた。
★スコット・マシソン
調子はあまり良くなかった。
まだ、彼本来のダイナミックな投球モーションではない。
まだ登板毎に状態に波がある。
そして、自身の制球ミスでもあるが、小林の連続捕球ミスで大きなピンチを招いていた。
しかし、絶対絶命の場面となってからは、アドレナリンを爆発させて福留と関本を討ち取る。
彼も「鬼気迫るボール」で小林を救った。
結局、彼も最後まで小林のサインを信じて首を横に振ることは無かった。
★澤村拓一
2アウトからボールが甘くなったが、彼も小林の2つのミスで、絶対絶命のピンチを背負ってしまった。
しかし、最後まで攻める姿勢を忘れていなかった。
そして、彼もピンチを迎えてからは小林のサインに首を振らなかった。
クイックモーションでは直球がシュート回転して苦しんだが、「開き直った」小林の配球に応えて、最後は内角低めに最高の直球を投げ込んだ。
★小林誠司
阿部の負傷によって急遽初回からマスクを被ったが、内容的には大きな課題が残ってしまった。
配球面で気になったのが、ポレダの時に直球系を要求しすぎて偏ってしまった事。
そして終盤の8回・9回、追い込んだ後の勝負球は全てフォークという、見え見えの配球になってしまった事。
パワーピッチャーでフォークを持っているマシソン・澤村に対して、高めのボール球を見せながらフォークで仕留めるという配球をしなかった。
そして終盤では、外一辺倒になってしまう傾向も危うい。
勿論、最悪の事を想定して、長打を打たれない安全な配球という意図は分かる。
しかし、見せ球は使わないといけない。
特に8回のゴメスには完全に見切られていたが、この時は2ストライク後は全て変化球だった。
マシソンの場合は、変化球が特別に安全と言うわけではない。
彼の場合は、精度が良くないので、抜けた半速球で逆に長打になりやすい。
事実、去年の東京ドームのゲームで、ゴメスに落ちないフォークをスタンドに運ばれた。
彼の変化球は「速い直球」を意識させてこそのボールであって、変化球単体で勝負できる切れもない。
上記で指摘した事は、プロでキャリアの少ない捕手に有りがちな配球である。
特に、プロの打者の怖さを覚えてしまった後に陥りやすい罠とも言える。
そして目に見えるミスとしては以下のプレーがあった。
①ワンバンドのボールを横に逸らして、ランナーの進塁を許したケースが3度(4回裏に1度、8回裏に1度、9回に1度)
②抜けて高めに浮いたフォークを捕球しきれず、走者を進塁させてしまったケースが1度(8回裏)
③完全にアウトのタイミングの2盗を防ぐ事が出来なかった。
①は言い訳が出来ないプレーで、準備不足と言われても仕方がない。
確かに難しいバウンド処理ではあるが、前に止めないと投手の信頼を得ることは出来ない。
②も準備不足。
フォークでワンバンドを意識した状態で、高めに大きく抜けたボールを捕球できなかったが、あの程度を後逸するようでは話にならない。
③は非常に残念だった。
相手が2盗することは十分予想できたし、スローイングしやすいボールだったにも関わらず、ワンバンド送球で完全なアウトのタイミングを逃してしまった。
一瞬、取ってから間が空いたが「警戒を緩めていた」という事だったら、視野が狭くなっていた事になる。
特に試合終盤で彼のミスが多発して、無用のピンチを多く作ってしまったが、試合は小林がマスクを被ったGの勝利に終わった。
この試合を勝ちきった事実は、彼にとっては今後の大きな財産になる。
貴重な経験として深く胸に刻み込んで、次の試合への糧にして欲しい。
筆者は今でも小林の「捕手力」の潜在能力を高く評価している。
しかし、去年後半に怖さを覚えてしまってから、明らかにプレーが消極的になっているし、大きな壁にぶち当たっている。
キャッチャーというポジションは様々な経験を経て一人前になる。
阿部だって昔は味方投手にボロクソに言われて涙を浮かべていたそうだ。
谷繁も若い頃は大魔人に酷評されていた。
このように投手の信頼を得るのは並大抵な事ではない。
目の前にあるプレーを確実にこなして、実績を積み上げなければならない。
「ローマは一日にして成らず」である。
仮に負けていたら、今朝のスポーツ新聞各紙は小林に対してバッシングしていたと思う。
それを救ったのは前述のリリーフ三人衆と、バックの固い守りだった。
今シーズンが始まる直前に、監督から選手全員に向けて「今年は全員で小林を支えて行こう」という主旨の発言をしたそうだが、昨日の試合はそれを全員実践していた。
小林のミスで招いた終盤のピンチ場面、内野陣の輪の中で、坂本・片岡・井端・村田が小林を激励している姿は非常に印象的だった。
【試合総評】
Gが追加点を奪えなかった事により、終盤はTに押され続けたが何とか凌いだ。
しかし、冷静に振り返ると初回の3点は、T側からすれば防げたかもしれない得点で、G側にとってはラッキーだった。
1アウト・1~3塁の状況で坂本が放った打球はファースト正面の緩いゴロ。
筆者を含めて全てのGファンは溜め息をついたが、ファーストのゴメスはセカンドゲッツーを一瞬狙った。
この判断は明らかに間違いで、あの緩い打球で打者走者が坂本である事を考えると、Wプレー狙いは考えられない。
しかも1塁走者も橋本なので、セカンド送球はクロスプレーになる。
問題なくホームへ投げて確実にアウトを取る場面だったが、一瞬の迷いでそれが出来なかった。
つまり、ホームでアウトを取っていれば、ツーアウト1・2塁になるので、次の阿部次第では無失点に防いだ可能性も十分ある。
私の記憶が間違っていなければ、去年の対戦でも同じようなケースがあったと記憶している。
しかも、他チームとの対戦でも似たケースが有ったので、これを含めれば2~3回では収まらない。
ここまで多いと、守備コーチがゴメスに注意しているか疑わしくなってくる。
基本的なプレーなので、同じことを許すようでは味方投手陣の士気にも関わってくる。
この試合でも、結果論ではなくメッセンジャーが、あのプレーの瞬間に怪訝そうな表情を浮かべて、その後の打者に対して明らかに引きずっていた。
その矢先に阿部が初球を叩き、2点目となるタイムリーを生んだ。
初回の3失点以降のメッセンジャーは徐々に立ち直ったので、あのプレーは結果的に非常に大きかった。
対してGは、効果的な追加点がなかなか奪えずに終盤ピンチの連続だった。
勿論、5番阿部の離脱で得点力が大幅に落ちた事が大きかったが、追加点を奪う決定的なチャンスは幾度か訪れていた。
一昨日の試合で、打線にも良い流れが生まれてきただけに、今日の試合が重要になってくる。
再び重いムードでになって、負の連鎖が続いてしまうのか?
阿部不在でも完全に断ち切る事が出きるのか?
今後を占う意味でも、打線にとっては重要な試合となる。
一方で、先発・田口には「勝ち負け」を意識しないで、思いきり腕を振ってT打線にぶつかって欲しい。
既に5連勝で、貯金が2つある状況にまでチーム成績は回復している。
明日の試合で仮に負けても、高卒2年目の彼を責めるGファンは居ないと思う。
当然、前回の投球をTも分析するので、S戦のように上手く事が運ぶ可能性は少ない。
少なくとも筆者は、彼が打たれて負けてしまっても、そこから彼が「何か」を得てくれるなら良いと思っている。
そして自分を見失わない投球が出きれば、きっと打線が援護してくれるし、リリーフ陣もしっかり抑えてくれる。
昨日の試合で、前述の内野陣が小林を激励している光景と、澤村が最後の打者を討ち取った直後に、マウンドに近寄る小林を熱く抱擁していた姿を見て、今のGには一体感があると筆者は思っている。
たとえ・・原辰徳と阿部慎之助が不在でも・・・。
以上 敬称略